エレベーター
朝急いでいると主婦風の女がエレベータのかごの中に男とはいってきた、
主婦風の女は男に対して何か親切というか他人行儀で、苗字にさんをつけて名前を呼ぶ
「あら、Sさんはどうして、この時間?」
「ええ、下階に車をとりにいこうと思って」
「あー、でも見られたらばれてしまうかもしれないわね、それはいけないわ」
ふふと女が笑う。男の方は先客に私が乗っているのを見て何か気後れした風だ。
なんとも怪しい空気だが、まあ美男美女というわけでなく面白い光景ではない。
構造上建物の出入り口は二階なので、私は親切心を発揮して1Fへのボタンを押した。
「そう、そういえばKさんよ、Kさんとこの間会ったのだけれど」
「Kさんですかお会いしたことはないなあ、どんな方でした」
「あの人はすごいのよ、シナリオを書いているの」
「へえシナリオですか、映画とかドラマの、そんな風には見えなかったな」
女は男を馬鹿にしたように笑う。
「いえ、違うのよ今度の○○党の混乱劇のシナリオを書いていたのがあの人なの」
聞き捨てならない。そして申し訳なくも他人事ながら胸が痛くなった。エレベーターのかごの旅路はまだ半ばでしばらくの間、この空気に私は耐えなければならない。
「そうなのですか」
「ええ、いいお話が聞けたわ」
中流より上くらいの人間が住む場所だし、まあそういった陰謀もあるのだろうが、この婦人がすこしおかしいか、だまされてるかと思うのが普通で、まあなんというかもやもやした感じだ。
長い沈黙。チン。かごが二階についた。
もやもやした気持ちをひきずりながらかごを降りると駅に向かった。そんなすごい人が身の回りにいるというのはまあ世界はあの婦人近辺を中心に回っているのだろう。
それが事実だとして、それが虚構だとして、婦人が山師に騙されてるとして、とりあえず私には関係のないことである。
サザエさん
子供の頃に暗い病院の待合室でサザエさんの再編集版でよりぬきサザエさんというのを読んだ。
サザエとフネがでかけるので、マスオと波平が今晩の食事を作ることになる。
高価なエビを使ったエビフライだ。最後のコマでは波平がフネに「お金をかければ美味しいものができるに決まってるんです」と怒られている。
こんな話がだいぶ記憶に残っている。
生ガキをブルーオイスターとか名前つけて何千円で売りつけたり、美食を煽るグルメ漫画はのきなみフネさんに謝罪すべきだよね。
まあとにかく、食べ物に関しては成長期を通じて、なんというかそんなことを言うのも野暮なような空気が出来たが。学校を出て、世の中に出ると食い物に限らず、「金かければいいってわけじゃない」と思い当たるケースにまま当たる。お金がなければ使うのは知恵で、なんというか世の中知恵が足りないのだ。
まあ今度ヒマができたらサザエさんを一巻から読んでみようかな